2020年10月11日日曜日

漢書;外戚伝 第六十七上(7) -王皇后(ii)-

 前回、栗姫の生んだ皇太子である栄に、長公主が自分の娘を押し付けようとして断られた話を書きましたが、今度は長公主は娘を王夫人の息子にやる、という話を持ち掛けました。王夫人はこれを受け入れたのです。長公主を敵に回したくないという考えもあったとおもいます。

薄皇后が廃されたのがこの頃で、長公主は盛んに景帝に栗姫を讒言します。

そんな状況の中で栗姫は愚かなことをしてしまいます。

景帝嘗屬諸姬子,曰:「吾百歲後,善視之。」栗姬怒不肯應,言不遜,景帝心銜之而未發也。

とあります。小竹さんの訳によれば

“景帝は自分もかつては諸姫(‘めかけ’とルビがあります)の腹に生まれた子の境遇にあったので「わしの死後、太子を良く視てほしい」といった。栗姫は怒って、そのこころづかいに応えようとせず、言葉も不遜だったので、景帝は内心このことをふくみながらも、まだ表面にはあらわさなかった。”

とあるのです。

訳文にちょっと抵抗があります。“吾百歲後”は、死んだあと、でよいのでしょうが、“之”が問題です。ここで景帝は自分の庶子の身分を心配しているのですから、“善く之を視よ”の之とは現在庶子である王氏の息子(後の武帝)を指すはずです。太子と訳するのは何か変ですね。栗姫はそれに対して冷たい回答をしたのですから、景帝が死んだあと太子栄(栗姫の息子)が帝位に就いたら皇太后になる栗姫の意向で王氏の子供はどんな目にあうか分かりません。これは景帝を不安、不快にさせます。栗姫は腹立ちまぎれに大変愚かな態度を景帝に対してとってしまったことになります。

一方で長公主は景帝に王夫人の子供のことを褒め、景帝も息子を賢いと思います。ここで王夫人が策を弄するのです。すなわち

王夫人又陰使人趣大臣立栗姬為皇后。

“王夫人はまたひそかに人を使い、大臣たちに栗姫を立てて皇后とするよう促した。”

とあります。王夫人はかつて呂后が高祖に寵愛された戚夫人に対し高祖の死後何をしたかは知っている筈です。大臣が帝を促して本当に栗姫が皇后になり、その子の栄が帝位についたら身の危険を招きます。おそらく景帝の気持ちをすでに知っていて仕上げでやったのでしょう。何も知らない大行(賓客の接待を司る官)が今の太子()の母(栗姫)を皇后にすべきでしょう、と奏上し、景帝を怒らせ“お前が言うべきことなのか”と言われて誅殺されてしまいました。可哀そうなものです。そして太子であった栄は廃されて臨江侯になり栗姫は帝に会えぬまま憂死します。王夫人が皇后となり、その子が皇太子になりました。

そうなると新たに外戚の恩恵に与れる者がいろいろと出てきます。皇后の兄の信は蓋侯(コウコウ)となります。妹も宮廷にはいり男子4人を生み、それらはいずれも王になりました。王皇后の生んだ娘たちも平陽公主、南宮公主、隆慮公主となります。




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